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シリカゲルサンプラーを用いたトリクロロ酢酸の測定手法の検討

2016年12月26日

 第56回日本労働衛生工学会,第37回作業環境測定研究発表会
学会発表要旨
2016年11月17日

1.はじめに

トリクロロ酢酸は生化学用薬剤や除草剤、皮膚薬剤に用いられ、空気測定法としてOSHA分析法PV20171)の固体捕集2層式シリカゲルサンプラー(150/75mg)を用いた方法が紹介されている。PV2017では捕集量の上限が10Lのため感度が取れず、低濃度のサンプリングが難しいものと考えられる。

そこで、本報告ではTLV:1ppm(7mg/m3)(NIOSH)2)の1/1000から2倍の範囲で効率的に測定・分析を行うため、斎藤ら3)が行った、TMS-diazomethaneによる溶出誘導体化反応(メチルエステル化反応)を参考にリスク評価を含めたトリクロロ酢酸の測定・分析手法について検討を行った。

 

2.実験概要

2.1 概要

 本実験ではリスク評価及び作業環境測定を想定し、0.1L/minで480分間測定した場合の気中濃度とした。ここでは、TLV:1ppmの1/1000から2倍の範囲における捕集および分析方法について検討を行った。

2.2 対象チューブと脱着溶媒

対象チューブはシリカゲルチューブスタンダード型(柴田科学社製、Cat No.080150-061、充填量:520mg/260mg)を用いた(写真1参照)。

2.3 溶出誘導体化反応(メチルエステル化反応)と実験方法

捕集管からのトリクロロ酢酸の溶出は2mLのメタノールにて行い、脱着は超音波30分にて行う。その後、上澄み液1mLを分取し、褐色バイアルビンに入れ、クロロホルム1mLと誘導体化試薬TMS-ジアゾメタン(原液)を20μL添加しよく混ぜる。この時、内部標準物質の1,2,3-トリクロロプロパン 1μL(37mg/mL)も添加する。良く振り混ぜ60分間静置し、オートサンプラー用バイアルビンに上澄み1mLを入れ、GC/MS(EI)法で分析をする。

2.4 検量線                         

標準液を溶出液にて希釈し0、0.335、3.35、33.5、335、670mg/2mLの5段階の混合標準溶液を調製し、GC/MSを用いて検量線の直線性について確認を行った(図1参照)。

  検量線
シリカゲルチューブスタンダード型   図1 検量

 

3.実験結果

3.1 脱着率

 脱着率はMDHS 33/24)の方法を参考に実験を行った。TLVの1/1000から2倍の気中空気を0.1L/minで8時間吸引した時のサンプラーに捕集される捕集量を算出する。算出した捕集量になるように調製した標準液を捕集管に添加し、10分間通気し脱着率を求めた。実験結果を表1にまとめる。トリクロロ酢酸の脱着率は濃度に関係なく90%程度となった。

表1脱着率
表1 脱着率


3.2
保存安定性

保存安定性は0.1L/minで480分間室内空気を吸引(常温、常湿)した後、両端をキャップし冷蔵庫(4℃)にサンプラーを垂直に立てて保存した。サンプル作製直後を0日目とし、1、5、7日後に脱着および分析し、保存性の確認を行った(TLV×2ついては3日後も検討)。

今回の検討では目標濃度であるTLVの1/1000の検出できなくなる傾向が示された。これは対象物質の分解や実験室大気内の夾雑物質によりトリクロロ酢酸と同じRTを示すピークを生じ、定量が困難となったため、TLVの1/500について検証を行った。

実験結果を表3、図2に示す。ここでは通気ブランクが発生するためTLVの1/500の分析値は変動を起こすことが確認された。保管についてはTLVの1/500から2倍までの濃度において、1週間の保存安定性は90%程度となった。

表3保存安定性結果 図2保存性安定結果 
表3 保存安定性結果 図2 保存性安定結果(グラフ)

 

4.まとめ

溶出誘導体化反応(メチルエステル化反応)を用いたトリクロロ酢酸の測定手法について、検討を行った結果を以下にまとめる。

(1)脱着率はTLVの1/1000から2倍について検討を行い、濃度に関係なく90%程度となった。

(2)保存安定性はTLVの1/500と2倍について1週間まで検討を行い、90%程度となった。

(3)保存安定性の結果から低濃度の測定では対象物質の分解や実験室大気内の夾雑物質による影響が考えられるため、何らかの対策を講じる必要がある。

謝辞
本研究は、中央労働災害防止協会が平成27年度に厚生労働省から委託した「職場における化学物質のリスク評価推進事業」において実施したものである。

参考文献
1) OSHA Trichloroacetic acid  PV2017
2) NIOSH 8322 Trichloroacetic acid (Urine)
3) 斎藤 育江他,「屋内プールにおける空気中ハロ酢酸類の測定」,東京都健康安全研究センター年報 (62) 219-225 (2011)
4) MDHS 33/2  Sorbent tube standards. Preparation by the syringe injection technique.,UK Health and Safety Executive Standards. 1983